大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福井地方裁判所 昭和45年(ワ)117号 判決

原告

岩崎美津代

被告

江前幸夫

主文

一  被告は原告に対し、金四五三万六三五五円、および内金二八七万七七一七円に対する昭和四五年四月一八日から、内金一二五万八六三八円に対する同五二年一月二九日から、内金四〇万円に対する本判決言渡の翌日の日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを四分し、その一を被告、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一七九八万五九四八円および内金二八七万七七一七円に対する昭和四五年四月一八日から、内金一四五九万八七二六円に対する同五二年一月二九日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

原告は、昭和四三年一二月一七日午後五時四〇分ころ、福井市田原一丁目五の二〇番地先道路横断歩道上を横断歩行中被告が運転する普通貨物自動車(福井四は六七九二)の前部に衝突された。

2  責任原因

被告は右自動車の所有者であり、同車を自己の営業のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条に基づき、本件交通事故により原告の被むつた後記損害を賠償する責任がある。

3  原告の受傷

前記事故により原告は外傷性頸椎症(頸髄不全損傷)、胸部打撲症の傷害を受けた。

4  損害の発生

(一) 治療費 金四一〇万七九三三円(別表一)

福井県立病院 金二二万六七二三円

受傷時から昭和五一年一二月末日までの同病院における治療費から被告が負担した同四四年八月二六日までの治療費を除いたもの。

藤本整骨院 金三四八万八三〇〇円

受傷時から昭和五一年一二月末日までの同院における治療費から被告が負担した同四四年九月四日までの治療費を除いたもの。

桑野医院 金一万二五〇〇円

金沢大学医学部付属病院 金二万一一八〇円

大阪医科大学付属病院 金三五万九二三〇円

(二) 通院交通費 金一九四万七〇一〇円(別表二)

福井県立病院を退院後昭和五一年一二月末までに自宅から右各病院への通院に要したタクシー代および国鉄運賃のうち被告が負担した同四四年八月二七日までのタクシー代を除いたもの。

(三) 通信費 金六万四〇〇〇円(別表二)

右タクシーを呼ぶための電話代(これも昭和五一年一二月末までのもので通院費と同様に被告が負担したものを除く。)

(四) 人件費 金五〇万七五〇五円(別表三)

受傷後における原告の日常生活の世話および従来原告の経営してきた煙草小売販売と洋裁店の営業の維持経営のため人を傭い入れなくてはならなくなり、そのため原告が支出した費用。

(五) 逸失利益 金五二八万七五〇〇円(別表四)

原告は本件事故当時前記住所地において煙草小売店と洋装店(洋裁を含む)を経営していたが、本件事故による受傷のため、原告がそれまで行なつてきた布地、付属品等の仕入れ販売および洋裁の裁断、仮縫いができなくなつたので、右洋装店は実質上閉店の状態に陥つた。

原告は右洋裁関係の仕事で事故前には一か月当り少くとも金五万円の収入を得ていたので、右実質上の閉店により原告が受傷時から昭和五一年一二月末までに喪失したと考えられる額を別表四の如く計算したもの。

(六) 慰藉料 金四五〇万円

原告は、本件事故による受傷のため歩行困難となり、長期間継続して加療を余儀なくされており、しかも完治の見込みなく、頑固な神経症状が残ることが明らかである。さらにこれまで経営してきた洋装店の営業も行なえなくなつている。

従つて、原告の受けた精神的肉体的苦痛は極めて大きくこれに対する慰藉料は金四五〇万円に相当する。

(七) 損害の填補

原・被告間で、本件事故による損害の填補として、被告において昭和四四年一一月末日を初回とし、毎月末日限り金三万五〇〇〇円宛を原告に支払う旨の和解契約が成立し原告はこれに基づき同四五年四月分まで合計金二一万円を受領しているので、右二一万円を本件事故による損害額から控除する。

(八) 弁護士費用 金一五七万円

よつて原告は被告に対し、右損害金一七九八万五九四八円および内金二八七万七七一七円に対する本件訴状送達の翌日である昭和四五年四月一八日から、内金一四五九万八七二六円に対する請求の趣旨拡張申立をした日の翌日である同五二年一月二九日から、各支払ずみまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の各事実は認める。

2  同3の事実は争う。

3  同4の事実は(七)の損害の填補部分は認め、その余は争う。

(一)の治療費のうち藤本整骨院の治療費は、本件事故と相当因果関係がない。即ち、同整骨院での治療は、原告が当初入院していた福井県立病院の主治医の指示もなしに行なわれたもので、しかも同主治医の治療方針とは逆行するものでありかつ、いわゆる過剰診療であるからである。

その余の治療費についても、原告の本件事故による傷害の症状は昭和四四年一二月九日には固定しているので、以後の治療費は本件事故とは相当因果関係がないので被告が負担しなければならないいわれはない。

大阪医科大学付属病院での治療費については、福井県下を初め北陸地方においては、定評ある病院が多く存在するのであるから、かかる遠隔地にある病院に通院する相当な理由ないし必要性は何ら存しないので、本件事故と相当因果関係ある損害とは認められない。

(二)の通院交通費のうち、国鉄運賃については、右と同様の理由で相当因果関係が認められない。

タクシー代については、治療の初期の段階においてすら機能回復のためバスで通院するよう主治医に勧められていたのに、あえてこれに逆つて利用したものであるうえ、通院に関係ない使用目的の分も含まれていると考えられ本件事故と相当因果関係があるとはいえない。

原告はすでに普通の日常生活を行なうまでに回復しており日常生活に困難を来すような後遺症状も残つていない。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1、2の各事実は当事者間に争いがない。

二  証人荒川弥二郎の証言(第一、二回)および同証言により真正に成立したと認められる甲第一一号証によれば、原告が本件事故により、外傷性頸椎症(頸髄不全損傷)、胸部および腰部打撲症の傷害を受けた事実を認めることができる。

三  そこで、請求原因4の損害について順次判断する。

いずれも成立に争いのない甲第二〇、第二一号証、第二二号証の一、および証人荒川弥二郎(第一、二回)、同高瀬武平の各証言、原告本人尋問の結果(ただし、後記措信しない部分を除く。)ならびに鑑定人高瀬武平の鑑定の結果を総合すると、以下の事実を認定することができる。

原告は、昭和四三年一二月一七日本件交通事故により前認定の傷害を受け、これを治療するため直ちに竹田整形外科医院(福井市宝永四丁目所在)に入院したが、同月二九日にいたり、原告本人の希望により、福井県立病院整形外科(同市四ツ井本町所在)に転院し、同病院において翌四四年八月六日まで入院治療を受けその後現在にいたるまで、同病院に通院して治療を受けていること。

他方原告は、同病院において入院治療中の同四四年四月六日から、当時の主治医荒川弥二郎医師の許可を受けることは勿論、相談もせずに藤本整骨院(福井市西木田一丁目所在)へ通院を始め現在まで継続して通院し、温湿布、電気マツサージ等の治療を受けているほか、さらに、同四九年一一月からは、右藤本整骨院の藤本繁男の紹介により、大阪医科大学付属病院(高槻市大学町所在)にも通院を始め、これまた現在にいたるまで継続し、同病院において、鍼、注射等の治療を受けていること。

右県立病院における原告の初診時の症状は、両上肢にしびれ感と筋力低下、知覚障害(橈骨神経領域の知覚過敏)、頭痛、後頸(項)部痛、胸痛等であり、両手の握力は零、上肢の反射は、右が全く消失し、左は僅かに残つている状態であつて、これらは頸髄自体に損傷があつた場合と同一の症状であつたので、同病院における治療は、主として頸椎の損傷に対して行なわれ、他に存した左胸部および腰部の打撲症は比較的軽度のものであつたところから、とくに治療対象とはならなかつたこと。

その後右症状は、同四五年一〇月頃において、右手指の筋力が巧緻運動不能で、右上肢は知覚過敏のままであつたが、握力、筋力は相当程度回復し(握力は、右手で一一キログラム、左手で二〇キロゲラム。)、自覚的な症状も持続するものではなくときどき発現する程度にまで軽快し、さらに、同四六年一一月頃にいたり、他覚的症状として残つているのは、右手の筋力低下(握力が一五ないし二〇キログラムで、平均より低い。)、首の前屈運動障害、右の手指の対立運動緩慢(対立運動は、入院当時はできなかつたが、右の頃には、それが可能となる程度にまで回復した。)その他知覚異常のみで、他に存した筋力反射、筋肉委縮はなくなつており、知覚的症状としても、他覚的には異常がなく、自覚的症状のみとなり、その自覚的症状とても頭痛、後頸(項)部痛、右半身しびれ感が主であり、ときどきめまい、疲労、右上肢の知覚過敏が発現するが、診察の度毎に、原告の訴える自覚的症状が必ずしも一定しなかつたこと。

原告が右県立病院を退院する以前の時点において、すでに右頸髄不全損傷は、他覚的所見に乏しく、外傷性頸椎損傷と診断しうる状態になつており、前記四六年一一月の段階においては、頸髄不全損傷としての症状は全く消失するにいたつており、右荒川医師も同四四年一二月九日ころには、原告の前記症状が、すでに固定したものと診断していたこと。

原告の右後遺障害は、当初自賠法による査定により同法施行令別表に定める一二級に該当するものとされたが、原告の異議申立により、これが九級に変更されたこと。

原告は、右県立病院入院中から同病院において機能回復訓練を受けており、退院後もこれを継続していたのであるが、同四四年六月頃、さらに、金沢大学医学部付属病院において診察を受けたところ、その結果は、脱神経症状(神経の伝導低下、頸髄不全損傷の症状)がみられ、リハビリテーシヨンを続ける以外方法がないと診断されているのであり、これまた右県立病院における診察結果および治療方針と同一のものであつた。かくて、右県立病院における治療方法はいわゆる運動療法であつたのに対し、藤本整骨院における治療方法はいわゆる安静療法であり、両者は根本的に異なつていたが、右県立病院において、原告の右症状に対する治療方法として、マツサージ治療の必要性はないと診断していたし現在においても右診断に誤りがないものとされており、また、原告は右県立病院において、運動浴、低周波照射、首の牽引等の理学療法を受けているので、この観点からしても藤本整骨院における通院治療は不必要なものであつたこと。

なお、原告は右県立病院入院当時においても歩行不能ではなくある程度の歩行困難な状態であつたのみであり、退院時においては、その歩行困難もさしたるものではなかつた。そこで、右荒川医師は、原告に対し退院後の通院はバスを利用した方が機能訓練をする意味からも良いのではないかと勧めたが、原告はこれに従わず、以後通院にはすべてタクシーを利用していること。

以上の事実を認めることができ、右認定に反する原告本人尋問の結果は、前記各証拠と対比してたやすく措信することができず他に右認定を左右するに足る証拠はない。

1  治療費

以上の認定事実に基づき治療費について判断すると、まず、藤本整骨院の治療費については、前記認定のとおり、同院への通院は、福井県立病院に入院中、主治医の許可もなく始めたものであり、同主治医は右通院は不必要であると認めており、また、右県立病院においては、既に入院中から機能回復訓練なども充分行なわれ、退院後も右県立病院で引続き機能回復訓練を受けており、同病院における治療には何ら不足するところは見受けられず、設備的にも原告の右治療に不充分な点があるとは考えられず、かつ同病院における治療方針は、前記認定の如く金沢大学医学部付属病院における診察の結果得られた治療方針とも一致しているので何ら誤りがあるとは認められないのである。以上の点を考え合わせるならば、右藤本整骨院での治療が必要なものであつたと認めることはできず、従つて、同整骨院における治療費については、本件事故による相当因果関係の範囲内にある損害と認めるのは相当でない。

ついで福井県立病院における治療費についてみると、まず、原告の本件事故による傷害の症状固定時につき判断すると、前記認定事実と前記鑑定の結果及び原告本人尋問の結果を総合すると、福井県立病院における原告の主治医である前記証人荒川が右症状の固定時と認めるところの昭和四四年一二月九日ころにおいては、原告の他覚的症状は既に一定しているものと認められ、以後変化しているのは原告の自覚的症状だけであり、これは一定したものではないが 原告が機能回復訓練を続けて受けていることを考えれば、その効果が現われてくるのはもとより当然のことであつて、このことは症状の変化とは別のものであると考えられる。以上の事実によると、原告の前認定の傷害による後遺障害の症状固定時は昭和四四年一二月九日であり、右後遺障害の程度は、自賠法施行令別表に定める九級一四号に該当するものと認めるのが相当である。

そうすると 原則として、右症状固定時までの治療費が本件事故と相当因果関係にある損害であることは明らかであるが、原告の前記後遺障害については、前認定の如く、症状固定後においても、機能回復訓練を要する状況にあり、右後遺障害の部位、程度から考えると、それも相当長期間継続することを要すると考えられるので、右症状固定後においても、なお五年間にわたる治療費(昭和四九年一二月末日までの分)は本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

そうすると、原告が損害賠償として被告に請求しうる昭和四四年八月二七日から同四九年一二月末日までの福井県立病院における治療費合計は、成立に争いのない甲第二二号証の一二ないし二四、第二三号証の三、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる同第二七号証、第三四号証、第三八号証の各二、第四五号証によれば、金一六万九五四七円と認められる。

原告の請求するその余の病院における治療費は、いずれも右症状固定後のものであり、かつ、前認定の如く右県立病院における機能回復訓練等の治療は、充分なものであると認められるから、それ以上に他の病院で受けた治療費までを本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのは相当でない。

2  通院交通費

次に通院交通費についてみると、タクシー代については、前認定の如く、右県立病院退院当時にはほとんど歩行困難は存しない状態で、主治医も機能回復のためにもバスによる通院が適切であると勧めたほどであるから、バスによる通院が充分可能であり、それにより身体に格別の差障りがあるとは考えられないのに、あえてタクシーで通院したものであるから、そのすべてを本件事故と相当因果関係のある損害とみることは到底できない。

しかし、退院した日(昭和四四年八月六日)から一ケ月程度の期間は、それまでの入院期間が長く慣れない外出であるから危険が伴なうことを考えれば、タクシーによる通院もやむを得ない事情にあつたものと認められるので、右期間内の自宅から福井県立病院への往復のタクシー代は、本件事故による損害として、被告に請求しうるものと認めるのが相当である。そして原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一六号証によれば、原告の請求のうち、右に該当するタクシー代として認めることができるのは、昭和四四年八月二八日から同年九月六日まで計九回片道一八〇円のタクシー代であるから、これを合計すると金三二四〇円となる。それ以後の分については、昭和四九年一二月末日まで月額金一二〇〇円(昭和四七年当時原告の肩書地から右県立病院までは往復金二四〇円のバス代がかかり、一か月に五回通院したとして得られる金額。)の限度における通院費は必要かつ妥当なものと認められるから、これを本件事故と相当因果関係にある損害として認めるのが相当である。以上を合計すると(右金三二四〇円と一か月金一二〇〇円の割合による六四か月分)、金八万〇〇四〇円となる。

なお、大阪医科大学付属病院に通院するための国鉄運賃については、前認定の如く、同病院における治療行為が原告の傷害を治療するために必要であつたとは認められないから、同病院への通院に要する費用としての右損害もまた被告に負担させるのは相当でない。

3  通信費

通院のための通信費については、本件におけるあらゆる証拠によるも 原告主張の期間内のタクシー呼出しに要した費用がいくらであるか認定するに足りない。

4  人件費

証人谷口艶子の証言及び原告本人尋問の結果並びにこれらにより真正に成立したと認められる甲第三三号証の一ないし三七第三五号証の一、二、第四一号証の一ないし三によると、原告は本件事故後において、訴外谷口艶子らに対し、若干の金員の支払をしたことが明らかである。しかし、右金員が原告の前認定の入院期間中のいわゆる附添費用として支払われたものであることは原告の主張、立証しないところである。また、それが原告の退院後に必要を生じたものであるとすれば、原告の損害として後記認定の逸失利益および慰藉料等を認容してもなお償いえない特別の損害であることについて、とくに主張、立証を要するものと解すべきであるところ、右特別の事情については原告において何ら主張、立証しないのである。のみならず 本件事故による原告の傷害の部位、程度および後遺障害の程度からすれば、右損害につき、右の特別の事情の存在を認めることができないものと解するのが相当である。

5  逸失利益

証人谷口艶子の証言及び原告本人尋問の結果並びにこれらにより真正に成立したと認められる甲第二六号証によると、原告は本件事故当時、肩書住居地において煙草小売店と洋装店を経営していたものであるが、本件事故後においては、右のうち煙草小売店の経営は継続しており、商品の売上も事故前とさして減少していないが、洋装店の経営については、本件事故により原告が従来行なつてきた洋服地の仕入れと裁断の仕事ができなくなつたため事実上継続不可能となり、事故後においては洋服の「なおし」の手仕事を行なえるにすぎない状態になつている事実を認めることができる。また、前記認定事実の如く、原告は本件事故により右上肢に後遺症が残り、右手指の巧緻運動の不能は現在に至るも完全には回復していないと認められるので右洋装店関係の減収は本件事故による損害と認められる。そして、その範囲であるが、右証拠により、原告が洋装店関係で事故前に得ていた収入は、一か月当り、洋服地の代金の中に占める利潤として約金三万円、裁断料と仮縫料とを合わせて約金二万円の合計約金五万円であつた事実を認めることができる。ただ、この職業は洋裁という細かい手仕事であるだけに、原告の年齢(大正四年二月一四日生、事故当時五三歳。)から考えると終生継続できるものとはいえず、また、常に月々右と同額の収入を得られたかどうかは疑問の余地なしとしない。他方、原告の前記後遺障害による労働能力喪失の割合は一般に三五パーセント程度とされている。以上の点に照らすと、原告は、本件事故後一年間(入院期間を含む。)は右収入の全部を喪失(いわゆる休業損害)し、その後六三歳に達するまでの九年間は、右収入の四〇パーセントを喪失したものと認めるのが相当である。そこで、これを後者につきホフマン式年別計算法により、その現価を求め、合計すると、次のとおり右損害は金二三四万六七六八円となる。

50,000円×12=600,000円 (休業損害)………〈1〉

(50,000円×12)×40/100×7.2782=1,746,768円………〈2〉

〈1〉+〈2〉=2,346,768円

6  慰藉料

原告の本件事故による傷害の部位 内容、程度、その治療経過 後遺症の程度、原告の本件症状には原告のもつ心因性の要素がきわめて大きく関与していると認められることなどその他本件訴訟にあらわれた諸般の事情を考慮すると、原告が被告に対して請求しうる慰藉料は金一七五万円をもつて相当と認める。

7  損害の填補

原告主張の合計金二一万円の損害の填補がなされた事実については当事者間に争いがない。そこで、前認定の原告の損害合計金四三四万六三五五円から右金二一万円を控除すると、残額は金四一三万六三五五円となる。

8  弁護士費用

原告が本件訴訟の提起およびその遂行を原告代理人らに委任していることは本件記録により明らかであるところ、本件訴訟の難易、請求額、認容額その他諸般の事情を考慮すると、原告が右代理人らに支払うべき弁護士費用のうち、被告に対し請求しうべきものは金四〇万円と認めるのが相当である。

四  結論

以上の事実によれば、原告の本訴請求は、右損害合計金四五三万六三五五円および内金二八七万七七一七円に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四五年四月一八日から、内金一二五万八六三八円に対する請求拡張の申立の日の翌日である同五二年一月二九日から、内金四〇万円(弁護士費用)に対する本判決言渡の日の翌日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 川端浩 岩城晴義 北村史雄)

別表一 治療費

〈省略〉

別表二 通院費、通信費

〈省略〉

別表三

〈省略〉

別表四 休業損

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例